未浩の‥
「みじ怪談」
その一〜その十
その一「あ‥」
「あ‥」っと、言いたかったが、
私の首はもう胴体から離れ、
線路の脇で「あ‥」の口を開けて、
通り過ぎる電車を見送っていた。
声を出そうとするが‥
大量の血液が、
口から溢れ出るばかりだった。
その二「最終電車」
とんでもない、
電車に乗り込んでしまった。
私はそう思った‥
目の前に座っていた女が、
私に向かって何か言っている。
‥
聞き取れない‥
ようやく終点につき、
女の言ってることが聞こえた。
「おまえも自殺したんだね‥」
その三「もみじ」
ちいさな‥
女の子が手を振っている。
色づいた楓(かえで)の、
木々、人波に、
一人たたずむ女の子、
もんぺ姿に三つ編み‥
よく見ると、
顔は赤くただれ、
振っているその手は、
紅葉(もみじ)のように、
真っ赤だった。
その四「座敷あらし」
座敷わらしが出るという、
民宿に泊まった。
品の良さそうな女将が
出迎えてくれた。
真夜中、ガサガサ‥
(出た‥座敷わらしだ‥)
と思い薄めを開けると‥
座敷わらしの格好をした‥
白塗りの女将が
私のバックをあさっていた。
その五「赤い靴」
飲んだ帰り‥
近道の公園を通った。
ブランコの前に、
3〜4歳の女の子用の、
小さな赤い靴が、
片方だけあった。
去年この公園で、
幼い女の子が、
ブランコから落ちて、
亡くなった話を思い出した。
ブランコがかすかにゆれた‥
その六「もういいょ」
真夜中、
近道の公園を通った。
もちろん人の気配はない。
公園の出口付近の、
植え込みの方から‥
少女の声が聞こえた。
「もういいょ」
私は心の準備ができておらず、
「ま〜だだよ」
と心でつぶやきながら‥
足早に公園を後にした。
その七「いきたい‥」
え‥お客さんどちらまで‥?
‥いきたい
タクシーに乗り込んだ女性は小さな声で言った。
いきたい‥、だから‥どちらまで?
苛立つように後部座席を振り返ると誰もいない。
運転手は気がついた「いきたい‥」は、
「生きたい‥」だったのか‥
その八「いない」
駅前の喫茶店の二人用のテーブル席で、
男がしゃべっているのを見かけた。
「何言ってるんだよ‥」
「女友達だって‥」
「わかった‥わかったって‥」
「そっちに送ってやるよ‥」
「ああ‥」
「君と同じようにね‥」
「‥」
向かいの席には誰もいない‥
その九「いる」
突然、2歳の息子が、
居間の隅の宙空を、
指差して言った。
いつもは片言の息子が、
この時はなぜかはっきりと、
「いる」と言った。
私にはまったく何も見えない。
一体何がいたのだろう‥
私は怖くて‥なにも‥
息子に聞けなかった。
その十「いぬ」
私は40歳を過ぎた。
18歳の時に死んだポチ。
今でも時々、ポチの気配を、
感じることがある。
それは‥決まって‥
私が落ち込んだ時、
まるで私を慰めるかのように、
心配そうに眺めている気配が‥
でも、そこにはポチは、
いぬ‥