未浩の‥みじ怪談#02

未浩の‥
「みじ怪談」
その十一〜その二十

その十一「靴音」
残業で深夜になった帰り道、
家の近くは人通りが少ない。
私のヒールの音に混じって、
男性の靴音が後ろから響く、
足早になる私を追い抜いて行った。
なんだ‥ストーカーじゃなかった‥
‥だけど男の姿もない。
靴音だけが私を追い越して行った。

その十二「夢」
私は、最近よく夢を見る。
朝起きて妻が作った朝食を食べ、
会社へ行く他愛ない日常の夢を‥
今、私はどこだかわからぬ、
林の地中で眠っている。
妻とその愛人の男によって殺され、
埋められたのだ。
今も永遠に覚めない夢を、
見続けている。

その十三「あいさつ」
隣りの104号の女性が、
私を見かけて‥
あいさつをして来る。
女性は首をだらりと、
下げたままだった‥
おかしい‥
隣の女性は半年前に、
首吊り自殺で死んでいる。
今、隣りは空き部屋に、
なっているはずなのだ‥

その十四「自分」
ある日‥
鏡に自分ともう一人の自分が、
背後に写っている。
なにか言いたげに、じっと、
自分を見つめている。
翌日、さらに近づいてきた‥
また‥次の日、
鏡に映る顔はすぐそこに‥
もう一人の自分が耳元で囁いた。
「おまえは明日死ぬ‥」

その十五「黒い球体」
朝起きると、
目の前に黒い球体が浮かんでいた。
球体といっても、あやふやな‥
とにかく真っ黒の塊だった。
夢だと思って、
その球体に顔を突っ込んだ。
夢ではなかった‥
もう一度ベッドに倒れこんだ時には、
私の頭は‥なかった。

その十六「ジドリ」
動画サイトにスマホで自撮りの、
映像が公開された。
10Fビルの屋上から1Fの駐車場が、
映し出され、彼のUP「鳥になります」
乱れる映像‥迫るアスファルト、ドスン!
鈍い音がして映像は途切れた。
一体、誰が‥この映像を上げたのか?

その十七「夜の口笛」
おばあちゃんが言ってた。
「夜に口笛吹いちゃだめだよ」って、
同じアパートの隣に住む男が、
夜に口笛を何度も吹いていた。
だから‥二度と口笛が吹けないように、
してやった‥あれ?でも、なんで‥
夜に口笛吹いちゃいけないんだろう?

その十八「4月1日」
4月1日に「人を殺した‥」
と友人に連絡した。
「ああ‥エイプリルフールね‥」
と信じてくれない。
翌年から本当に人を殺して連絡した。
毎年4月1日に人を殺し、今年で10人目‥
今年は友人を殺そう‥そしたら、
信じてくれるだろう。

その十九「花見」
彼女と初めて花見をした。
桜並木が延々と続く道を、
二人で手をつないで歩く。
時々、散る花びら、
その美しい横顔を見ていて、
思った‥
彼女を桜の樹の下に埋めて、
毎年、桜を愛でたいと‥
美しいものは美しい時に、
散るのが一番いい。

その二十「蠢く/うごめく」
「あっ‥また、動いた」
彼の子供を身ごもった‥
3ヶ月前にすれ違っただけの彼‥
想像妊娠なんかじゃない。
きっと、あのひとに似たかわいい、
赤ちゃんが産まれるに違いない。
彼の家は突き止めてある。
必ず認知してもらう‥必ず‥