未浩の‥みじ怪談#03

未浩の‥
「みじ怪談」
その二十一〜その三十

その二十一「すくう」
なぜ‥この川に来たのか?
暑い真夏のような日差しに、
たまらず冷たい川の水に手を浸し、
すくい上げると‥長い髪の毛の束が、
まるで、生き物のように絡みつき‥
川底へ引きずり込む。
私は思った‥あの女だ‥
数年前この川で殺した女だ。

その二十二「透明の傘」
駅からの帰路、
すぐ雨が降り出した。
途中、透明の傘をさした、
女性とすれ違った。
おかしい‥
透明傘越しに透けて、
見えるはずの顔がない。
女性の顔自体も透けていた。
振り向くと‥女性の姿はなく、
雨だけが降り続けていた。

その二十三「いかがわしい手」
私はつり革を両手で掴み、
満員電車に揺られていた。
目の前の女性の肩口に、
青白い手首が乗っている?!
その手は徐々に下へ、
臀部を撫で回しスカートの中へ‥
女性は何かを察したのか‥
振り向くと私を鬼の形相で、
睨みつけた。

その二十四「雨宿り」
急に雨が降り出したので、
とっさに近くの軒先に入った。
閉店した仏具屋だった。
雨が小降りになるまで‥
と思ったが‥
私は軒先をすぐに飛び出した。
気配しか感じなかったが‥
軒先にはすでに何者かが、
雨宿りをしていた。

その二十五「蝉」
戦後70年目の終戦記念日‥
蝉が一層大きく啼き出したように、
思えるのは気のせいか?
無念に散った尊き多くの先人達の、
声なき叫びが蝉の啼き声に木霊する‥
啼き終えた蝉の亡骸が、
渇いたアスファルトのそこかしこに、
転がっていた。

その二十六「巣喰う」
ある人殺しの証言〜
「幽霊なんて信じちゃいない‥
でも、やっぱり人を殺すのは、
やめた方がいい‥よ、
幽霊ってのは見えるもんじゃない。
頭に巣喰うもんなんだ‥
殺した女が今も頭の中で笑ってる‥
精神を喰い潰すんだ‥死ぬまで‥」

その二十七「足跡」
自宅はマンションの6階、
いつものエレベーターを使う。
エレベーターの隅に、
びしょ濡れの傘が立てかけてあった。
おかしい‥今日は雨など降ってない。
チン!慌て6階で降りる。
濡れた足跡が自宅前まで、
続いていた。

その二十八「水風船」
夜中、雨が雨戸をバラバラと、
叩く音で目を覚ました。
暗闇に何かが潜んでいる‥
それは溺死体のように、
ぶよぶよと白くふやけている。
ひたひたと近づき、
私の身体の上へ這い上がると‥
水風船のようにパン!と弾けた。

その二十九「手ダケ」
妻の手は美しかった。
もしかしたら‥
私は妻の手だけに、
魅かれていたのかもしれない。
妻を殺し埋めた庭から‥
ある日、ヘンテコなものが、
生えてきた。
それは、白く美しい‥
手ダケ‥

その三十「耳なり」
見知らぬ男だった‥歯並びの悪い。
今、思い出しても寒気がする。
その男に突然耳元でささやかれた。
今もあの男のささやきが耳から離れない。
まるで耳鳴りのように‥
あの日から私の耳の穴には、
並びの悪い歯が生え揃い、
「おまえは‥おれのもの」
とささやく。